ボッティチェリ ヴィーナスの誕生
ステファノ・ズッフィさん著。
松下ゆう子さん訳。
人とは思えぬ顔ばせの乙女がひとり
貝殻に運ばれ
悪戯好きのゼヒュロスたちによって岸辺に吹き寄せられ
天も彼女の誕生を歓んでいるかのようだ
あなたはその泡は本物だというだろう、海もそうだと貝殻も本物、吹く風もほんとうのことだと
あなたは女神の眼に光が輝き
空も四大も彼女に微笑むのを見るだろう
ゼヒュロスとクロリスの吹き出す暖かい風、豊穣の恩恵を受けながらヴィーナスは貝に乗って波を漂い、岸辺に吹き寄せられ、春の訪れを告げる。
ウェヌス・プディカ、コントラポストに表れる女性らしさ、美しさに心惹かれますね。
ヴィーナスの誕生は1483年頃ロレンツォ・イル・マニフィコの全盛期に、当時珍しく2枚の麻を縫い合わせたキャンバスに描かれたそう。
ボッティチェリは作品数、当時の文献も少なく、解明されてないところが多く謎深いけど、
この絵については1568年に出たヴァザーリの美術科列伝に少し記載があるだけで、
精巧さもさながら大きさがあるから当時の記録がないのって不思議。
ルネサンス時代はヴィーナスの誕生が15フィリーノ、ファルネーゼのカメオが1万フィリーノと絵画より工芸品の価値が大きかったのかもしれない。
ヴィーナスの誕生は政治色や宗教観が濃く反映されているとも言われていて、メディチ家の象徴とされるオレンジの木があったり、ヴィーナスの髪は家宝のファルネーゼの杯の裏の模様にもそっくり。
ロレンツォの没後には進行復活運動が起こり、不適切だとされる世俗画や女性裸体の絵は燃やされ、ボッティチェリの作品もいくつか消失したそうで。
この絵は当時の人たちの心づかいで、大切に守り受け継がれてきたのでしょうね。